中条省平氏の『解説』を読むと、60年代の漫画表現『劇画』の登場時代を過不足ない目配りで書き記している。(厳密に言えば、中条氏は私より9才年下であるから、60年代と言うより70年代に20代の多感な時期を過ごしていたことになり、『ガロ』ブームや学生運動の盛り上がる時期を体感していない世代であろう。)
時代を丸ごと掴み出し、読者に理解してもらう事は中々難しいことであり、その時代の苦楽を体験した者がまだ心臓の鼓動を止めていない時代であれば、その時代の『○○選集』なるものを編纂することはストレスの高い出版事業に違いない。
60年代の住宅の少ない時代に家を建てれば、玄関脇は客間、応接間と呼ばれる部屋があり、そこの飾り書棚に並べられる書物は百科事典や文学全集、世界や日本の美術全集などであるが現在、若い人が建てる家にはそのような部屋が無いことは磯田光一氏の著作に書かれてあるが、若い作家が創作に行き詰まった時に、選集物は未来を指し示す一助になるに違いなく、また大衆化時代の知の体系として、孤独な作業であるが標本箱に作家を整理する歴史化作業も、大切な出版メディアの仕事であろう。
小説も何度も全集、選集が組まれているが、あの作家が入っていない全集、選集物の価値は低いという、お乳欲しがる赤子のような発言を20代の頃によく聞いたものである。
その『文学全集』物で名高い筑摩書房が刊行する『選集物』であるから、是非、将来、日本漫画全史なるものを手掛け発売して頂きたいものである。
ひょっとすると漫画は、小説と違い世界全史などが編める表現かもしれず、欧米ではそのような書物の先駆けが生まれているのではないかと思うし、また、それは映像表現にも言えるのではないかと思う。
本シリーズは、6月以降、毎月一冊、刊行する予定であると言う。
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