小説に限らず、人間の行為は真似から始まります。
写実絵画の褒め言葉に、本物みたいと言うのがありますから、本物のようにそっくりとは、抗しがたい人間の欲望なのではないかと思います。
ただ、パクリと判るレベルの小説は、二流だと作者の清水さんは申しております。
まぁ、絵もそうですね。誰々に似ていると言われては、作品のレベルが低いのでしょう。
真似から独自のスタイルを築いてゆかなければなりません。
どうやっても先達に似てしまうとは、先達が押さえた世界が広く、深いのです。それが大物と呼ばれる所以です。
さて、この著書のどこに私が出てくるのかと言いますと、絵からお話をつくる例題として「赤色エレジー」の一コマが使われておるのです。
私ですとこのコマから、このような物語を紡ぎだします。
一郎が怒りを抑えて幸子に問いかけます。
「昨夜は何処に居たんだ。また、林静一に逢っていたんだろぅ。あいつモテるからなー。知っているのかあいつ、この漫画を描きながら大阪万博の仕事やトヨタの広告、日本テレビのゴールデン番組のディレクターをしているのだぜ。あいつ、俺達を別れさせようとしているんだ。そんな奴と逢うなんて。」
幸子は一郎の言葉をさえぎるように振り向き、愛している一郎を憐れむような目で見つめながら「一郎―、そんな言い方止めて。林先生とはそんな関係じゃないわ。先生は良い人よ。私達の事、親身になって心配しているのよ。」
「そりゃーそうだろう。作者だもん。売れるようにしたいから、必死だぜ。」
まぁ、こんな調子で、物語は始まります。
手に取りたい方はココです。
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