111名の作家へのアンケートです。
一冊とは難しいですね。私は中勘助さんの『銀の匙』を上げました。
仲の良い女の子と月の光に腕の白さを競う場面など、まだ男女の性差が芽生えていない子供時代を活写して見事です。
これが『銀の匙』の続編と思われる作品では、風呂に浮いている長い髪の毛をつまみ、女だと反応し、箱膳で向かい合っての食事時には、主人公は一度も顔を上げて女性を見ることも、話すことも出来ません。思春期の異性にドキドキしている感覚が判ります。
それで彼女が旅立つ時には、紫陽花の陰で見送り、ハラハラと涙を流すのです。
両作、読まれると面白いです。
地面に穴を掘って住んでいた男の家が火事になり、地面から細く立ち上る煙の焼跡を恐る恐る覗き込む少年の姿に、ただ明るいだけではない明治時代の庶民の暮らしが垣間見られます。
読まれると嬉しいです。
自書の推薦は、コンピュータで描いた漫画作品『夢枕』です。立体も入っておりますから、どの辺りに立体が入っているか、探すのも面白いです。
『夢枕』は、画工が旅をする夏目漱石さんの『草枕』がベースになっておりますが、画工が作品中で語る絵画論を中心とした評論に御目にかかっていなかったので、漱石さんの絵画論を取りあげてみようと思い、描きました。
脱亜入欧にまっしぐらな日本を漱石さんは、同じ方向で座る乗客を国民に見立て、爆走する汽車を、危ないよ、危ないよと書いております。
拙著『夢枕』は、前近代では様々な影響を与え合った中国に追い越された今の日本を、迷い込んだ山水の世界から出られない画工として描きました。
漱石さんの山水画作品も登場しております。探してみては如何ですか・・・。
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